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 マッシム

銭湯には富士山と牛乳

銭湯には富士山と牛乳

私が結婚していた頃、当時の妻の連れ子がいた。小学校低学年の男の子であり、まだまだあどけない顔をしていた。養父の立場であったが、お父さんとは言わせなかった。自然に任せるというスタンスから、私のことをあだ名で呼ばせていた。今時の子供と同様、ゲーム好きだったが、活発な面もあり、近くの公園や雑木林などで、友達と遊んでいたこともある。

そんな彼が、ある日、こんなことを言った。

「マッシムさん、銭湯行こうよ。銭湯」


正直、何を言うんだこのガキ、と思った。けれども、銭湯のような大衆浴場には、しばらく行ってなかった。好奇心が沸いたので、二人で行くことにした。

銭湯は近所であったので、自転車を使った。私は細身だが、彼は小太りだった。二人とも野球帽を被り、私が彼を追いかける形だった。時折、振り向く人もいて、少しこそばゆい気持ちになった。

銭湯は当時の自宅から自転車で5分程度のところだった。駅前の商店街から少し外れたところにあり、高齢者であれば無料で入場できた。私たちが入った時は、夕方の時間帯であり、夕食前でもあるためか、あまり人気がなかった。

彼はどこかしらウキウキした感じだった。服を脱ぎながら顔を上げ、ニコリとしてくる。大丈夫か?、とつい思ってしまったが、子供らしい子供であったことも確かだ。脱衣した後、連れ立って体を洗った。彼が石鹸で泡を立て、どんどん大きくしながら微笑みかけて来た。周囲を見れば、ちらほら人がいた。迷惑そうではないので、注意はしなかった。

体を洗い終えると、二人で湯船に浸かった。それ程大きくはなく、壁に富士山の絵があった。テレビドラマにでも出てくるような典型的な感じがし、私はどこかしら懐かしさを感じた。

二人でタオルを頭に乗せていた。
二人でフウと言いながら、湯に入っていた。
二人で笑いながら冗談も言い合っていた。

「やっぱり、銭湯は良いね」


私は言葉を返さなかったが、心が鳴ったことは確かだ。

湯船から出ると、脱衣場へ行った。二人で服を着た後、ドリンク売り場へ向かった。実は銭湯へ来る前、湯船に浸かった後、牛乳を飲もうと約束していた。銭湯には牛乳だ、と彼が言っていた。おそらく漫画で知ったのであろう。当時の妻から彼が銭湯を体験していないことを聞いていた。

牛乳を二本買い、一本を彼に手渡した。二人で一緒に飲み干した。しかも、大小の男が腰に手を当てながら、ぐいぐいぐいぐい喉を潤した。

「銭湯では、こうでなくっちゃ」


彼のにこやかな顔が印象的だった。

帰宅時も、彼は自転車に乗りながら、今日は良かったと言っていた。その後も時折、わたしと一緒にまた銭湯に行きたいと口に出していた。結局、彼と銭湯へ行ったのは、一度だけだった。けれども、決して忘れられない思い出になった。彼もそうであれば、と勝手に期待してもいる。そして、大事なこともある。

銭湯には富士山と牛乳。

一種の伝統のようにも思うが、皆さんはいかがお思いになるだろうか?

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